リカレント教育の必要性と現状の課題

 

技術が急速に発展・変化していく現代では、就労と教育を繰り返すリカレント教育の必要性が高まっています。

 

日本政府も、「働き手を増やす」ための方策を打つために、リカレント教育推進に約5,000億円を投入する方針を固めました。

 

労働者にとっても社会にとってもメリットのあるリカレント教育ですが、日本では社会の仕組みが追いつかず、定着できない現状があります。

 

 

リカレント教育とは就労しても再び教育を受けられるシステム

リカレントとは「recurrent」と書き、「反復する」「循環する」という意味があります。

 

リカレント教育とは、社会に出た人が再び学校で学び直し、生涯にわたって「就労」と「教育」を繰り返し行うことができるシステムのことで、経済協力開発機構(OECD)が1970年代に提唱し、各国に普及してきました。

 

 

リカレント教育が必要とされる時代背景

100年前の社会では、若い頃に身につけた知識や技術をもとに、生涯働き続けることも可能でした。

しかし、社会が目まぐるしく変化し続ける現代では、技術が進歩するペースは常に加速し続けています。

 

そのため、労働者が学生の時に身に着けた知識や技術はいつの間にか役に立たなくなってきており、社会についていくために、次から次へと自分自身をアップデートする必要が出てきているのです。

 

ここに、就労と教育を繰り返すリカレント教育が必要とされる背景があります。

 

また、出産や育児、介護などで一度離職せざるを得なかった人にとっても、学び直すことで再就職をする機会が増えることが予想されます。

 

そうすれば、日本において喫緊の課題である労働者不足の緩和にも繋がるかもしれません。

 

 

リカレント教育の定着が難しい日本の現状

リカレント教育が一般的である欧米と比べると、長期雇用が長らく雇用形態の中心であった日本では、学び直すために離職する必要があるリカレント教育はリスクが高く、利用する人もまだ少ないというのが現状です。

 

そのため、普及には社会の仕組みから変えていく必要があります。

 

 

・高等教育機関への25歳以上の入学者の割合(2015年)[注1]

スイス スウェーデン OECD平均 日本
29.7% 25.8% 16.6% 2.5%

 

[注1]首相官邸 内閣官房人生100年時代構想会議推進室:リカレント教育参考資料[pdf]

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinsei100nen/dai6/siryou1.pdf

 

 

学び直しの期間に否定的な傾向がある日本企業

日本では、一度離職して学ぶ期間を「ブランク」であると否定的にとらえる傾向があります。

また、再就職する際には学んだ経験よりも職務経験が重視されがちです。

 

例えば、新たに経理の仕事がしたい人が職業訓練校に通って「簿記2級」の資格を取っても、経理未経験者のため経理部門の採用にたどり着けず、結局はもとの職務経験を生かした別の仕事に就くというケースは少なくありません。

 

 

また、働きながら大学院に通うことを「業務に支障がある」ととらえる企業もあるため、土日を利用し、会社に内緒で大学院に通って修士号を取得する人もいます。

 

リカレント教育を阻む3つの壁

 

生涯にわたって学習する機会を望む人が多い中、実際には乗り越えることが難しい、次の3つの壁があります。

 

*1.学費や受講料の負担が大きい(年間約50万円〜350万円)

*2.勤務との両立ができない

*3.いったん職を離れるため、次の職を得られるか不安

 

やはり制度改革なくしてこれらの問題を解決することは難しいのが現状ではありますが、すでに日本女子大学や放送大学などリカレント教育を実施している大学も存在します。

 

また、慶応義塾大学大学院や虎ノ門大学院といった、夜間・土日に通える社会人向けのコースを設置している大学院もあるため、離職してキャリアを中断させることが難しい方には、仕事を続けながら学べる社会人大学院に通うというのも一つの方法かもしれません。

 

 

リカレント教育の普及が期待される現状

もっと普及してほしいところですが、現状では社会の仕組みが追いついていないため、まだまだ一般的ではありません。

 

しかし、リカレント教育が当たり前になれば、企業は多様な人材確保が可能となりますし、労働者は何歳になっても挑戦できる有意義な人生を送ることができるでしょう。